INJE SPEEDIUM 3.908km 2019.07.06(Sat) 20℃ 曇り時々晴れ
今年も毎年恒例のナイトレースがインジェスピーディアムで開催されました。ナイトレースは通常のスケジュールとは異なり,金曜日に予選,土曜日に決勝が行われます。今年も仕事の都合により決勝のみ参加しました。
金曜日の夜,最終便でソウルに入り,土曜午前のバスでインジェに向かいました。予選を見ることができなかったので,早めにサーキット場に入り,フリー走行をしっかり見る予定だったのですが,サーキットに向かう途中で想定外の出来事が起こり,到着は夕方5時半を回っていました。ホテルを出発してからサーキット到着まで9時間かかる珍道中となり(詳細は後述),メディアセンターで受付を済ませて外を見ると,すでにInje Speedium Hotelは夕陽を浴びて光り輝いていました。
18:00 ピットに降りると既にグリッドウォークの準備が始まっていました。レーシングモデルが一列に並び,カメラマンに笑顔で応えています。
18:20 グリッドウォークが始まりました。ソウルから車で2時間かかるインジェですが,多くの観客が詰め掛けました。
ポールポジションのキム・ドンウン選手(写真左)。少し誇らしげなインタビューの様子です。今回のレースは上位チームのハンディが重いため,それ以外のチームがポールを狙える絶好のチャンスでした。とはいえ,予選結果をみると,1分36 秒台の中に1位〜7位まで入る大激戦。混戦の中,制したポールポジションで,さぞかし嬉しかったことでしょう。
インジェには美しい山(雪岳山)と渓谷があり,夏の時期は登山やラフティングの観光客で賑わいます。ナイトレースの観客はレース観戦だけではなく,日中,山や川で遊んだ後,花火大会に行く感覚でレース場に来ます。そのような背景から小さな子供連れの家族が多く,グリッドイベントでは子供たちがドライバーにサインや記念撮影をお願いするシーンが多く見られました。
「こっちにおいで」とはじらう子供を誘い込むチョ・ハンウ監督と柳田真孝選手(ATLASBX MOTORSPORTS)。レース中には見られないユニークな一面です。
19:00 開幕式 グリッドウォークが終わり,観客が観覧席に戻ると,開幕式が始まります。
開会宣言の後,「エンジンスタート」の掛け声と同時に全車一斉にエンジンをふかします
19:30 開会式終了。辺りが暗くなり,ライトアップが始まります。
ここでちょっとひと休み。慌ててサーキット場に入ったため,この時間を使ってホテルにチェックイン。サーキット場からホテルまでは歩いて行くことができます。ホテル周辺もライトアップされて綺麗になりました。
20:00 チェックインを済ませてサーキットに戻ると,ピット裏ではレーシングモデルの撮影会が始まっていました。
20:30 GTクラス決勝レース開始前。レース場は綺麗にライトアップされていました。
20:45 GTクラス決勝。ASA6000クラスの各チームは,GTクラスのレース状況をモニターで見つつ,決勝レースの準備をしていました。
21:20 ドリフトショー 派手なネオンの車が音楽と共にグリッドに向かいます。白煙を上げながらドリフトする車に観客は大興奮です。
その間ピットでは,継続してレーシングモデルの撮影会が行われていました。車だけではなくレーシングモデルも電飾のアクセサリーを付けてお洒落をします。ONE RACINGのピカピカ光る冠や,ECSTA RACING TEAMの赤いイヤリングが印象的でした。
21:45 PIT EXIT OPEN いよいよASA6000クラス決勝が始まります。
21:50 決勝グリッドに車が並びました。
22:10 いよいよスタートです。
レース序盤,予選2位のオ・イルギ(ENM)と予選3位のキム・ジェヒョン(VOLLGAS RACING)の激しいバトルに始まり,その直後,バトルの興奮が冷めないオ・イルギとチームメイトのチョン・ヨニル(ENM)の同士討ちが発生,波乱の幕開けとなりました。その後,ノ・ドンギ(HUNTER Purple)がコース上に止まりセーフティーカーが入ると後続車がじわじわ距離を縮めます。2位以下が入れ替わる中,先頭のキム・ドンウン(第一製糖)は先頭を譲らず,結局,スタートからチェッカーまでトップを譲らずポールトゥウィンで初優勝。第一製糖チームは2016年創設後,初めての優勝となりました。2位は予選7位から追い上げた井出有治(ECSTA),3位は予選10位から追い上げたソ・ジュオン(第一製糖),そして,上位入賞こそできませんでしたが,予選18位から決勝10位でフィニッシュしたリュ・シウォン(TEAM106) の善戦が印象的でした。
第一製糖レーシングチーム,2016年創設以来,初優勝
キム・ドンウン(第一製糖)がチェッカーを受けると,夜空に大きな花火が打ち上がります。キム・ウィス監督は感極まり涙を流していました。
フェアプレイ賞は井出有治選手(ECSTA RACING TEAM) 。今シーズン初表彰台に加えて,嬉しいダブル受賞です。
予選18位から10位入賞を果たしたリュ・シウォン監督(TEAM106) 。これまで2戦連続リタイヤし,予選結果も振るわず苦戦を強いられた状況でした。今回は,これまでのレース状況を踏まえ,序盤は冷静に対応し,後半からじわじわ追い上げる,ひたすら我慢のレースでした。獲得ポイントは2ポイントですが,今後に繋がる貴重なポイントです。
ECSTA RACING TEAM 3台体制へ,日本人ドライバー選出中
23:30 記者会見 ASA6000クラスは30分超の長い記者会見になりました。主に,今シーズン初表彰台の井出有治選手(ECSTA)に関する内容と,ECSTA RACING TEAM新体制に関する内容でした。
井出有治選手のコメント
キム・ドンウン選手(第一製糖)が速く,追いつくことができなかった。素直におめでとうと言いたい。今シーズンは今日まで表彰台に乗れなかったが,クムホタイヤ,チームは頑張ってくれている。韓国タイヤに負けているが,今後,もっと努力していきたい。今シーズンはエンジニア不在で,(井出選手)自身がセッティングをしていた。そんな中,今日のレースは昨年までエンジニアを務めていた伊与木さんが来てくれた。先週末タイでSUPERGTがあり,疲れているのに感謝している。
Q:自身の優れている点は何か?
車を速く走らせる能力。問題が発生しても,それを解決するための経験はある。車の調子が悪くても,上手くごまかしながらやっている。チームメイトのチョンくんは,このサーキットで速いので,そのデータを見て自身の車の修正した。チョンくんにはよく「チームを引っ張るために何をすべきかを,チームに適切に伝える必要がある。そして自分自身が努力しないと勝てない」と伝えている。
Q:クムホタイヤは今回何が変わったのか?
企業秘密なので詳細はお話できないが,韓国タイヤに対抗するために新しいコンセプトのタイヤを投入した。今回,基本部分が良くなり表彰台に上がったが,これに改良を加えればもっとよくなると思う。失敗すれば(結果が出なければ)僕の責任になる。
Q:今後について
今年でSUPERRACE6年目。こんなに長くやるとは思わなかった。チームメイトは気を遣ってくれ,キム・ジンピョ監督 もLINEで心配してくれる。今年日本の歳で44歳。韓国モータースポーツの役に立てればいいと考えている。エンジニアの伊与木さんも韓国モータースポーツ貢献のために来てくださっている。伊与木さんはSUPERGT GT500クラスでジェンソンバトンもいるチャンピオンチームのチーフエンジニアですが,韓国モータースポーツ貢献のために来てくださっている。
Q:ECSTA RACING TEAM を3台体制にする話は本当か?
1ヶ月前にチームから3台体制にすると言われた。(井出選手自身が)SUPERGT GT300クラス, SUPER耐久レースから候補者3名をあげた。現在,チームで誰にするか考えている。但し,SUPERGTで勝っている選手でも,SUPERRACEで勝つのは難しい。
韓国モータースポーツ発展のために,それぞれの立場でできることについて,改めて考えさせられた時間でした。
25:30 ナイトレース終了。今年も長い夜になりました。みなさん,本当にお疲れまでした。
2019年シリーズポイント
第4戦が終わり,今シーズンも折り返し地点を迎えました。ここまでの成績を見て見ましょう。
チーム部門,ドライバー部門ともにATLASBX MOTORSPORTが1位となっています。タイヤで見ると,韓国タイヤが1位〜3位まで独占しています。クムホタイヤはECSTA RACING TEAMの4位が最上位で,トップとの差は38ポイント。後半戦の巻返しに期待しましょう。
番外編
今回,サーキットに向かう途中,ちょっといろいろありまして,到着まで9時間かかる珍道中となりました。今,振り返ると,楽しい旅の思い出です。レースとは全く関係ありませんが,思い出としてここに記しておきます。
10:00 東ソウルバスターミナルから,インジェ行きのバスに乗りました。インジェまでの所要時間は約2 時間。14:45からのASA6000クラス練習走行に十分間に合う時間に出発しました。
11:30 雪岳山が見えて来ました。ここからサーキット場まで車で15分。予定通り到着したと思い,美しい雪岳山を眺めながらバスを降りる準備を始めました。
12:15 到着予定時刻から30分経過。そろそろインジェバスターミナルに到着するはずなのに,バスターミナルに到着しません。どこかを経由してから到着するのかと思い,大人しく外の景色を眺めていました。
13:00 到着予定時刻から1時間経過。なんと!海が見えるではないですか!?
一体ここはどこだろう?と思いつつ,それでもまだこのバスはどこかを経由してインジェに行くものだと信じていました。初めて見る東海(日本では日本海)に大感動の私。バスの中でひとりはしゃいでいました。
13:30 到着予定時刻から1時間30分経過。まだまだ続く青い海,白い砂浜。それでもまだこのバスは,どこかを経由してインジェに行くものだと信じていました。子供の頃,山陰地方の海辺で過ごした私にとって,故郷の海の向こう側から見る景色に感慨深いものがありました。
昭和の山陰海岸には,朝鮮半島から流れ着いたレコードやおもちゃが大量に打ち上げられていました。韓国語で書かれた風変わりなおもちゃを手に取り,”海の向こうにある国は,どんな国だろう”と子供心に思ったものです。大人になった今,このような形で韓国側から故郷の海を見るとは思ってもいなかったので,感慨もひとしおでした。そして韓国から見た海は,子供の頃に想像していた以上に青く澄み,とても美しく感動しました。
14:00 到着予定時刻から2時間経過。まだインジェに到着しません。気がつけば乗客は私一人になっていました。バスの運転手さんが一人になった私に気づき,「一番前の席に来なさい」と私を呼びました。
後から気づいたのですが,このバスの暗黙のルールとして,次の停留所で降りる乗客は一番前の席に移動し待機するルールだったようです。つまり,最後の乗客となった私は,停留所の場所に関係なく次に降りる乗客となったため,前の席に呼ばれたわけです。このようなルールは今まで経験したことが無かったので,ローカルルールだったのでしょう。
このバスの運転手さん,雪岳山の峠を攻めたり,シートベルトを着けていないと乗客がひっくり返りそうな車線変更をしたり,前を走る車の運転マナーが悪いと激しく抗議するなど,少し怖そうな雰囲気でした。ただよく観察しているとアクセルワークは抜群で,ブレーキポイントも的確。そして,私が車内に一人になってからは,気遣ってくれたのか,攻めの運転から優しい運転に変わっていました。
15:00 到着予定時刻から3時間経過。バスターミナルに到着しました。でも見慣れたインジェバスターミナルではありません。外の景色を伺いなから座っていると,車内清掃が始まりました。明らかに終点です。
運転手さんに「ここは終点だけど,どこに行くの?」と聞かれ「ここはどこですか?」と逆質問すると,互いに顔を見合わせて大笑いになりました。怖いと思っていた運転手さんから笑みが溢れ,少し安堵しました。運転手さんは「ここはソクチョ(속초)だよ」と言ってスマホから朝鮮半島の地図を出しました。
青丸がインジェ,赤丸がソクチョです。つまりバスはインジェの山を抜けて東海に出て,美しいソクチョの海岸線を走っていたのです。
ソクチョはロシアからのフェリーが到着する韓国北部の港町で,ドラマ『秋の童話』の 撮影地として日本でも有名だそうです。運転手さんにインジェに行きたかったことを伝えると,申し訳なさそうな表情で,うつ向いてしましました。どうもインジェバスターミナル到着前に,前の席に移動する乗客がいなかったため,停車せず通過したようです。ただ今回の状況については,運転手さんのミスだけではなく,現地のルールを察することができなかった私のミスでもあるので,運転手さんを責めることはしませんでした。
仕事の都合で予選を見ることができなかったので,練習走行だけはと思い,運転手さんにタクシー乗り場を尋ねました。ところが運転手さんはタクシー乗り場を教えようとはしません。
「日本人女性が一人でタクシーに乗り,インジェに行くのは駄目です。バスで行きなさい。」
父親に叱られたような感覚でした。ふと我に返り,何故だか急ぐ心が落ち着きました。そして時計を見ると15時を回っていました。既に練習走行は終わろうとしています。この騒動でうっかり時計を見るのを忘れていました。これではタクシーで向かったとしても間に合いません。諦めるしかなく,どうしようか悩んでいると,運転手さんは「次のインジェ行きバスは16時出発なので,それまで食事でもしてください。」と慰めてくれました。「食事できるところはありますか?」と尋ねると,ある場所に誘導してくれました。
そこはバス運転手の社員食堂でした。今日のメニューはカレーライス。大きな電子ジャーに手作りカレーがたくさん入っていました。
運転手さんは「ほら,こうしてトレーに載せなさい」とおかずの盛り方を教えてくれました。以前,太白(テベック)でレースがあった頃,レース場の食堂でも同じように盛っていたのを思い出しました。
初めて食べる韓国の手作りカレー。食堂の職員の方々も優しく受け入れてくださり,心に沁みて美味しかったです。
食堂で運転手さんと一緒にカレーを食べていると,ひと仕事を終えた同僚の運転手がやってきました。見慣れない日本人女性に気づくと,こっそり「연인?(恋人)」と聞いているようでした。そのうち噂を聞きつけた運転手仲間が食堂に集まり,いっとき社員食堂が恋人騒動にまで発展しました(笑) 運転手さんが真面目に「손님!손님!(お客様)」と答えていた様子が微笑ましかったです。
16:00 食事を終えて予定通りバスに乗り,17:30 Inje Speediumに到着。その後のレースの様子はBlogの通りです。ホテルを出発してから9時間の珍道中となりました。
レース翌日,インジェバスターミナルでソウル行きのバスを待っていると「よぉ!」と男性の声がしました。振り向くと昨日の運転手さんがにっこり笑って手を振っています。偶然にも帰りのバスも一緒でした。また二人で顔を見合わせて大笑い。旅の記念に写真を撮ってもいいですかと尋ねると,快く応じてくれました。
帰りは渋滞にはまり,ソウルまで5時間かかりました。合計往復14時間。サーキット滞在よりも移動時間の方が長い,ハードな旅程となりました。
今,政治の世界では日韓関係が悪化し,暗礁に乗り上げています。それぞれの国の事情はありますが,私たち国民の間では,人として心が通い,想い合える関係でありたいと思います。今回の旅を通じて,幼少時代を振り返り,韓国に深い縁と人の温かさを感じました。国を超えて,言葉の壁を超えて,文化を超えて,過去を超えて,韓国と日本がより良い関係になることを強く望みます。
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